介護疲れを理由に離婚はできる?法的なポイントや、離婚を回避する場合の対策

介護疲れを理由に離婚することはできる?法的なポイントや、離婚を回避する場合の対策 離婚の手続き

「もう限界かもしれない…」「でも、離婚なんてできるのだろうか…」
介護と離婚の問題に直面し、出口の見えない苦悩を抱えている方もいるのではないでしょうか。

介護が原因で離婚を考えることは、決して恥ずべきことではありません。
介護は、肉体的にも精神的にも大きな負担を伴います。
その負担が夫婦関係に深刻な影響を及ぼし、修復不可能な状況に陥ってしまうケースも少なくないのです。

つらい状況を変えるために、まずは正しい知識を身につけて、具体的な行動を起こしてみませんか?

この記事では、介護と離婚に悩む方に向けて、主に以下のトピックを専門家視点でご説明します。

この記事でわかること
  • 介護を理由に離婚は認められるのか
  • 離婚の手続きはどう進めればいいのか
  • 離婚後の生活はどうなるのか
  • 離婚を回避する方法はあるのか

介護が理由で離婚できる?

まず前提として、離婚は相手が合意すれば成立します。
合意を得られない場合は、法的な手法をもって調停・裁判で成立を図る形になります。

法律上は「婚姻を継続しがたい重大な事由」がある場合、離婚は認められます。
そして、介護が原因で夫婦関係が破綻してしまった場合も、この「重大な事由」に該当する可能性があるのです。

具体的にどのような場合に介護離婚が認められるのか、詳しく見ていきましょう。

法的に認められる介護離婚の条件

離婚は、夫婦のどちらかが「もう一緒にやっていけない」と思っても、すぐに認められるわけではありません。
法律で定められた「離婚の原因」が必要になります。

婚姻を継続しがたい重大な事由

民法770条1項に規定された、離婚が認められる理由のことです。

具体的には、「不貞行為」「悪意の遺棄」「3年以上の生死不明」「回復の見込みのない精神病」「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」の5つがあります。

介護が関係するケースでは、5つ目の「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当するかどうかが争点となることが多いでしょう。

例えば、長年にわたる介護で夫婦関係が完全に冷え切ってしまった場合や、介護負担の偏りから夫婦間に深刻な不和が生じ、修復が不可能になったときが考えられます。

こうした状況が続くと、裁判所が「婚姻関係が破綻している」と判断し、離婚が認められることがあります。

裁判所が離婚を認めるかどうかの判断には、以下のような要素が影響します。

  • 介護期間の長さ
    何年にもわたる介護が精神的・肉体的に影響を与えるケースが多い。
  • 介護による精神的・肉体的負担
    特に過度な負担を受けている場合、深刻なストレスや健康問題につながる。
  • 夫婦間の協力体制
    協力がなく、一方に負担が集中している状況は離婚の理由となりやすい。
  • 離婚後の生活設計
    離婚後の経済状況や生活の安定性も考慮される。

例えば、裁判例の中には、妻が夫の介護を10年以上続け、夫婦間のコミュニケーションが完全に途絶え、日常生活が維持できなくなったために離婚が認められたケースもあります。

そもそも、義両親の介護は義務なのか?

結論から言うと、日本の法律では配偶者の親に対する介護義務は明確に定められていません

義両親の介護は、道義的・社会的な期待はありますが、法律上は実子(親の子供)に介護の義務があります。つまり、義両親の介護は「義務」ではなく、主に配偶者やその兄弟姉妹が担うべきとされています。

民法

直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある(民法877条1項)

ただし、配偶者との関係や家族の事情によって、義両親の介護をサポートするケースが多く見られます。
特に、同居している場合や配偶者が介護できない場合などでは、配偶者を支える形で義両親の介護を行うことがあります。

介護で離婚を考えてしまう理由とは

介護は心身ともに大きな負担を伴うものであり、特に配偶者の介護が長期化する場合、その負担から「介護離婚」を考える人も少なくありません。

介護離婚とは、配偶者や義両親などの介護がきっかけで夫婦関係に亀裂が生じ、最終的に離婚に至ることを指します。このような状況に陥る理由は、主に精神的、肉体的、経済的な負担が重なり合うためです。

介護は家庭内での負担が非常に大きくなることが多く、その結果、夫婦間での協力がうまくいかず、不満が蓄積してしまうことがあります。以下では、介護離婚を考える具体的な理由について詳しく見ていきます。

精神的・肉体的負担によるストレス

介護は、長時間にわたる労力を必要とし、肉体的な疲労だけでなく、精神的なストレスも蓄積します。
特に、配偶者の介護を1人で担う場合、孤独感や不安が増大し、サポートがない状態が続くと、介護者自身の健康が損なわれることもあります。

さらに、介護を行う中で、配偶者とのコミュニケーションが減り、関係が希薄になることもあります。
介護疲れが進行すると、日常生活での些細な出来事が大きなストレスとなり、離婚を考える原因になりやすいです。

夫婦間の役割分担の不平等

介護において、夫婦間で役割分担が偏ることも、離婚を考える一因です。

特に、女性が介護を一手に引き受ける場合が多く、夫がサポートを十分にしない、または介護に対する理解が不足していると、不満が募ります。
結果的に、介護を担当する側が孤立感を抱き、夫婦間の信頼関係が崩れてしまうことがあります。

このような状況が続くと、介護者は「自分だけが犠牲になっている」と感じ、夫婦関係を継続する意味を見失ってしまうことがあります。

経済的な負担と将来への不安

介護には経済的な負担もつきものです。
介護が長期化すれば、医療費や介護施設の利用費用がかかり、家計に大きな影響を与えます。

特に、現役世代が仕事を辞めて介護に専念せざるを得ない場合、収入が減少することで将来の生活に不安を感じることがあります。

このような経済的な不安が増す中で、介護者が「このままの生活を続けられるのか」と悩み、離婚を考えるケースも少なくありません。特に、将来の見通しが立たないまま介護を続けることに限界を感じる人が多いです。

介護離婚は、介護が与える多くの負担と夫婦関係の悪化が絡み合う結果として起こります。
問題を解決するためには、適切なサポートを受けたり、夫婦間での協力体制を見直したりすることが重要です。

介護離婚の手続きで後悔しないために知っておくべきこと

「離婚を決意したけれど、具体的に何をすればいいのか分からない…」

介護離婚を考えているあなたにとって、法律の知識や手続きが不安なものに感じるかもしれません。
特に、感情が高ぶりやすい時期だからこそ、冷静に進めることが求められます。

離婚は人生の大きな転機です。しっかりと準備をして、後悔のない選択をするために、円満な離婚を目指すための知識と手続きについて詳しく解説していきます。

離婚協議書の作成ポイント

離婚が決まった際、介護離婚であっても、取り決めるべき事柄はたくさんあります。
財産分与や慰謝料、年金分割、場合によっては親権や養育費など、重要な事項を明確に書面で残しておくことが大切です。

離婚協議書は、口約束だけでは後にトラブルが発生するリスクが高いため、書面に残し法的な証拠としておく点で有用です。〇〇によると、離婚後に財産分与や養育費を巡るトラブルの約30%が、口約束によるものだと言われています。

作成ポイント
  • 離婚協議書に記載すべき主な内容
    • 離婚の合意
    • 財産分与(預貯金、不動産、車など)
    • 慰謝料(介護の負担に対するものなど)
    • 年金分割(将来の生活保障に関わる重要な部分です)
    • 子の親権・養育費(子供がいる場合)
    • 面会交流のルール(子供との関係を維持するため)
    • 住宅ローンなどの債務処理

例えば、財産分与に関しては、預貯金や不動産の割合をどうするかを明確にする必要があります。

特に介護離婚の場合、介護期間中に貯蓄が減ってしまったケースでは、離婚後の生活費をどう確保するかが重要です。

年金分割については、離婚後の老後資金のため、きちんと話し合い、取り決めを行ってください。

調停・裁判を避けるための交渉方法

離婚の話し合いは、お互いの感情が高ぶり、冷静に進めるのが難しいことも多々あります。
特に介護が原因の離婚では、介護に対する感情的な不満や将来への不安が複雑に絡み合います。

離婚調停や裁判を経ずに、話し合いで解決できることが望ましいですよね。
そのためには、交渉がこじれないようにするための工夫が大切です。

円満な解決を目指すためのポイント
  • 感情的に対立せず、冷静に話し合う
    相手に対して冷静な口調を心がけましょう。
  • お互いの意見を尊重し、妥協点を探る
    意見は必ず伝え、双方にとって納得できる解決策を見つけましょう。
  • 第三者を入れて、冷静な判断を仰ぐ
    弁護士やカウンセラーの協力を得ると、話し合いがスムーズに進む場合があります。

特に、介護における負担や将来の生活設計を話し合う際、相手が理解しにくい部分が出てくることもあります。

このような場合は、専門家に仲裁役を依頼し、冷静な判断をしてもらうことで感情的な対立を避けることができます。話し合いをする際、具体的な数字や期間を提示し、現実的な解決策を示すことが大切です。

離婚に向けた法的サポートの活用方法

法的サポートを受けるメリット
  • 離婚に関する最新の法的知識を得られる
  • 自分に有利な条件で離婚協議を進められる
  • 必要な書類作成や手続きを代行してもらえる
  • トラブル発生時の対応を任せられる

介護離婚を進める際、法的なサポートを得ることは非常に重要です。

介護や離婚の手続きに慣れていない場合、自分だけで進めようとすると、手続きが煩雑で、誤りや後悔が起こりやすくなります。

弁護士や行政書士に相談することで、複雑な手続きをスムーズに進め、安心して離婚後の生活に移行することができます。また、精神的なサポートとしても専門家の存在は大きいです。

自分で抱え込まずに、専門家に相談して最適な道を見つけましょう。

介護と離婚後の生活設計に役立つ知識

「離婚後の生活が不安…経済的にやっていけるのかしら…」
介護を理由に離婚を決意したものの、将来の生活に対する不安が尽きないことも多いでしょう。

特に、長年の結婚生活で経済的に夫に依存していたり、介護のために仕事を辞めざるを得なかった場合は、離婚後の生活設計が非常に重要です。

この章では、離婚後の生活を経済的に安心して送るために知っておくべき、財産分与や年金、介護に関する権利・義務について詳しく解説します。

離婚後の財産分与と年金分割の基本

財産分与の対象となるもの
  • 共有財産:対象になる
    • 預貯金
    • 結婚後に購入した不動産
    • 婚姻中に取得した車
    • 株式
    • 投資信託など
  • 特有財産:対象にならない
    • 結婚前に所有していた不動産
    • 親から相続した財産
    • 婚前の貯金
    • 贈与された資産など

結婚期間中に夫婦で築き上げた「共有財産」は、離婚時に財産分与として原則として2分の1ずつ分配されます。
これは、夫婦共同で築いた財産と見なされるためです。

ただし、結婚前から持っていた財産や、結婚中に夫婦の一方が贈与や相続によって得た財産などの「特有財産」は、原則として財産分与の対象外となります。

また、老後の生活設計において重要な年金についても忘れてはいけません。結婚期間中の保険料納付実績に応じて、年金分割の手続きを行うことが可能です。

慰謝料や生活費の確保方法

離婚後、特に介護離婚では経済的に困窮する可能性があるため、元配偶者に対して「慰謝料」や「生活費」を請求できる場合があります。
慰謝料は、離婚に至った原因が配偶者側にある場合に請求できるものです。

  • 慰謝料請求が認められるケース
    • 配偶者の不貞行為が原因で離婚に至った場合
    • 配偶者からDVやモラハラを受けていた場合
    • 配偶者の親族から過剰な介護要求が原因で離婚に至った場合

慰謝料の相場は50万〜300万円とされていますが、ケースによって大きく異なります。
また、生活費については、経済的に自立が難しい場合に「婚姻費用分担請求」として元配偶者に請求することが可能です。

慰謝料や生活費は個別の事情によって請求が認められるかどうかが変わりますので、事前に弁護士などの専門家に相談し、法的な手段を確実に把握しておくことが大切です。

離婚を回避する!介護の負担を減らす3つの方法

介護は、決して一人だけで抱え込むべきものではありません。さまざまなサポートを活用することで、負担を軽減し、夫婦で協力しながら乗り越えることができるはずです。

ここでは、離婚を回避するために、介護の負担を減らすための具体的な方法を3つご紹介します。

行政や民間の介護サービスの活用

介護疲れを感じている場合は、行政や民間の介護サービスの利用を検討してみましょう。

介護保険制度を利用すれば、訪問介護やデイサービス、ショートステイなど、さまざまなサービスを受けることができます。これらのサービスを利用することで、介護負担を軽減し、自分の時間や心のゆとりを取り戻すことができるはずです。

介護サービスの例
  • 訪問介護:
    ホームヘルパーが自宅を訪問し、身体介護や生活援助などのサービスを提供します。
  • デイサービス:
    日帰りで施設に通い、食事や入浴、レクリエーションなどのサービスを受けられます。
  • ショートステイ:
    短期間、施設に宿泊して介護サービスを受けられます。

費用は介護保険制度で一部負担されるため、経済的な負担も軽減できます。

費用の目安としては、訪問介護は1回あたり約300円〜1,000円、デイサービスは1日あたり約500円〜1,500円です。まずは、お住まいの市区町村の介護保険窓口に相談してみましょう。

家族や友人との協力体制を整える

介護は一人で抱え込みがちですが、家族や友人に相談することで、状況が大きく変わることがあります。
特に兄弟姉妹や親戚に介護の状況を共有し、協力を求めることが有効です。

兄弟姉妹や親戚に介護の状況を伝え、協力を求めたり、一時的に介護を代わってもらうことも考えられます。
また、友人や近所の人から「最近、疲れているみたいだね」「何か手伝うことはある?」といった声掛けが、あなたの心を軽くしてくれることもあるでしょう。

特に介護が長期間にわたる場合、定期的に他者に頼ることで、精神的・身体的な負担が軽減されます。
一人で抱え込まず、周囲のサポートを得ることが、離婚を回避するための重要なステップです。

精神的・身体的な負担を減らすセルフケア

「介護で自分のことが後回しになってしまっている…」
介護をしているあなたは、自分自身の心身にも目を向けてあげましょう。介護者の精神的負担が大きいことは広く認識されています。

十分な睡眠や栄養を摂り、適度な運動をするなど、健康的な生活習慣を心がけましょう。また、趣味の時間を楽しんだり、友人と会って話をすることも、気分転換に役立ちます。心身ともに健康な状態を保つことが、介護を続ける上での原動力になります。

セルフケアの例
  • 毎日、湯船に浸かってリラックスする
  • 好きな音楽を聴いたり、アロマを焚いたりして気分転換をする
  • ヨガやストレッチで体を動かす
  • マッサージやエステで自分へのご褒美をする

自分を大切にする時間を持ち、心身のバランスを整えましょう。セルフケアができれば、介護の負担も軽減され、夫婦関係も改善される可能性が高まります。

離婚と介護に関するよくある質問

介護と離婚に関する疑問や不安は多くの方が抱えるものです。ここでは、特に多く寄せられる質問に対し、Q&A形式で詳しくお答えします。

Q. 介護を理由に離婚できる?

A. 場合によっては可能です。

ただし、単に「介護が大変だから」という理由だけでは離婚は認められません。法律上、「婚姻を継続し難い重大な事由」として認められる必要があります。例えば、以下のような状況が該当する可能性があります。

  • 長期間にわたる介護によって夫婦間の不和が深刻化し、夫婦関係が完全に破綻した場合
  • 介護の負担が一方に偏り、精神的・肉体的に過大な負担を強いられた結果、配偶者が鬱や過労に陥った場合
  • 介護を巡る暴言や暴力、モラルハラスメントが発生し、耐えられない状況に陥った場合

ある事例では、長期間にわたる義理の両親の介護で、妻が過度な精神的苦痛を抱え、夫が協力しない状態が続いたため、離婚が認められたケースがあります。

Q. 離婚すれば介護の義務はなくなる?

A. 配偶者の介護義務はなくなりますが、子供の扶養義務は残ります。

離婚によって夫婦関係は解消され、法的には配偶者に対する介護義務はなくなります。しかし、親子関係は離婚後も続くため、子供がいる場合、子供に対する扶養義務は続行されます。

一方、元配偶者の親の介護については、法律上の義務はありません。ただし、離婚協議書で介護費用や責任の所在を明確に定めておくことが重要です。例えば、後々のトラブルを防ぐため、介護費用の負担や、施設利用の有無などを詳細に話し合っておくべきです。

離婚後も元配偶者やその親と何らかの関わりを持つケースは約15%とされていますが、法律上の介護義務はないため、決定は本人の自由に委ねられます。

Q. 介護をしていた配偶者に慰謝料を請求できる?

A. 請求できる可能性はあります。

例えば、以下のような状況に該当する場合、慰謝料を請求できる可能性があります。

  • 長期間にわたって過度な介護を強いられ、精神的苦痛や身体的負担を抱えた場合
  • 介護を巡る暴力やモラハラがあった場合
  • 介護のために仕事を辞めざるを得なくなり、経済的損失が発生した場合

介護を理由に離婚し、精神的苦痛や経済的な損失が認められたケースでは、慰謝料として100万〜300万円の支払いが命じられた例があります。慰謝料請求が認められるかどうかは、介護期間や状況、離婚に至る経緯などが総合的に考慮されます。

慰謝料請求を検討する場合、まずは弁護士などの専門家に相談し、具体的なアドバイスを受けることが重要です。

まとめ:介護と離婚、後悔しない選択を

この記事では、「介護を理由に離婚できるのか」「離婚したら介護の義務はどうなるのか」といった疑問について、そして、離婚の手続きや離婚後の生活設計、そして離婚を回避するための方法について解説してきました。

介護は、肉体的にも精神的にも大きな負担がかかるものです。
その負担が原因で夫婦関係が悪化し、離婚という選択肢を考える方も少なくありません。

介護を理由とした離婚は、決して珍しいことではなくなってきています。
しかし、離婚は人生の大きな決断です。
感情的に行動するのではなく、まずは冷静に現状を整理し、ご自身の状況や気持ちを整理することが大切です。

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